仏教の引導儀式 - 宗派別の特徴と「引導を渡す」の真の意味

「引導を渡す」という言い回しは耳にしたことがあっても、葬儀の場面で使われる「引導」には耳馴染みがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。引導とは、亡くなった方が無事に仏様の世界へ行けるように導くための儀式のことです。
本記事では、宗派ごとの引導儀式の特徴や、「引導を渡す」の本来の意味、そして現代における使われ方について解説していきますので、引導について詳しく知りたい方はぜひ最後までお読みください。
葬儀における引導とは
引導は日本の仏式葬儀に特有の儀式で、亡くなった方が迷わず極楽浄土へ旅立てるよう導くものです。宗派によって進行に違いはありますが、最後に行われるのが「引導の儀式」です。僧侶が故人を称え、仏の世界へ導く法語を唱えます。
かつては火を灯した松明が用いられ、故人の煩悩を浄化し悪霊を払う意味がありました。これは、古くは僧侶の手で火葬が行われていたことに由来します。現在では安全面の配慮から本物の使用は少なく、松明を模したものが祭壇や棺近くに置かれることがあります。
引導が終わると、参列者が焼香や献花で故人を見送り、火葬場へと向かいます。
宗派ごとの引導の儀式
引導の儀式は、仏教の宗派によって形式や意味合いにさまざまな違いがあります。以下では、それぞれの宗派の引導儀式について具体的に見ていきましょう。
臨済宗の引導
臨済宗では、松明で円を描きながら引導法語を唱え、故人の人徳を称えつつ、禅の教えを通じてこの世への未練を断ち切り、仏性が目覚めるように導きます。「仏性(ぶっしょう)」とは仏になるための素質のことです。また、言葉では表せない禅の教えを「喝(カツ)」や「露(ロ)」といった言葉に込めて大きな声を出すことが特徴です。
曹洞宗の引導
曹洞宗の引導儀式は臨済宗と似ており、松明を用い、禅師による引導法語によって進められ、終盤には「喝」や「露」といった声を大きく発します。これは、故人に亡くなったことを告げ、この世への執着を断ち切ってもらい、心安らかに仏の世界へ旅立てるよう願う意味が込められています。
浄土宗の引導
浄土宗では、引導の儀式を「下炬引導(あこいんどう)」または「引導下炬」と呼び、最も重要とされています。かつては導師が松明で火葬の点火を行っていましたが、現在は火葬は火葬場で行われるため、実際の点火はせず儀式のみ行われます。
導師が松明に見立てた法具を二つ持ち、一方を捨て、残る一本で円を描きながら「下炬の偈(あこのげ)」を唱え、最後にもう一本も捨てます。宗派によっては松明を一本のみ用いる場合もあります。
真言宗の引導
真言宗では、真言を唱えることで故人は功徳を授かることができるとする「印明(いんみょう)」の考えに基づき、引導儀式が行われます。僧侶が生前の名前や戒名を読み、生前の功績を称えた後、仏の世界へ無事に旅立てるように皆が願っていることを故人の魂に語りかけます。
亡くなった方に死を受け入れてもらい、安らかに仏の世界へ行ってもらうことが引導儀式の役割なのです。
日蓮宗の引導
日蓮宗では、僧侶が棺の前に進み、払子(ほっす)という法具を3回振り、焼香を3回行った後、「引導文」を読み上げます。引導文では、霊山浄土へ赴く故人へ法華経の大切さを説き、故人の徳を讃えます。
まず、仏様に向かって故人の身分や年齢、戒名などを伝え、仏の世界へ入れるようお願いをします。続いて、故人に向かって語りかけ、迷いのあるこの世界から浄土へと導きます。
天台宗の引導
天台宗では、僧侶が故人の生前の功績や徳を称え、「菩薩戒偈(ぼさつかいげ)」を唱えます。これにより、故人が菩薩として生きる心構えを示し、その後の引導によって迷うことなく仏の世界へと導かれるよう祈願します。
また、下炬(あこ)では僧侶が松明や線香を用いて火を示しながら、「下炬文(あこぶん)」を読み上げて仏の光明を象徴的に表します。その後、読経が続くなかで参列者は順番に焼香を行い、故人への感謝や祈りを捧げます。
「引導を渡す」の本来の意味
「引導を渡す」とは、本来、亡くなった方をあの世へ導くことを意味します。
仏教では、死者は三途の河を渡り浄土へ旅立つとされます。しかし、中にはこの世に残した家族への想いが断ち切れず、この世をさまよう魂もあるとされます。死者が死を受け入れることができるように説き、迷わず成仏できるように導くこと。これが本来の「引導を渡す」という言葉の意味です。
語源の「引導」とは、人を悟りへ導くための真理や教えを指します。加えて、亡くなった方がスムーズに仏の世界へと進むために、故人へ唱えられる法語のことでもあります。
本来は、故人にあの世へ旅立つ時が来たことを理解させる行為が引導であったことから、現在の「最後通告をする」といった意味で用いられるようになりました。
現代における「引導を渡す」の使われ方
現代において「引導を渡す」という言葉は、相手にこれが最後のチャンスであることを伝え、諦めさせる意味を持つ言葉です。たとえば、相手を見捨てる場合や、ビジネス上で契約を切るとき、アスリートに戦力外通告をする際などに用いられます。
「引導を渡す」と同様の意味を持つ言葉としては「観念させる」や「お払い箱にする」などがあります。もともとは仏教用語に由来する「引導を渡す」という表現ですが、現代ではビジネスシーンをはじめ、さまざまな場面で使われています。
まとめ
宗派ごとの引導儀式の特徴や、「引導を渡す」の本来の意味、現代における使われ方について解説してきました。
引導の儀式は、葬儀の中でも特に重要な場面であり、同時に故人の魂がこの世を離れ、あの世へ旅立つ瞬間でもあります。別れは悲しみを伴うものですが、こうした儀式の意味を知ることで、残された人々も心に区切りをつけやすくなるでしょう。
宗派によって儀式の形は異なりますが、「故人を丁寧に送りたい」という思いに違いはありません。大切なのは、故人を敬い、心を込めて見送る気持ちではないでしょうか。
本記事がお役に立てましたら幸いです。
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