自宅で看取る準備/心構えについて訪問看護師が解説
厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」によると、終戦直後の1950年ごろは、訪問診療が主体でおよそ9割が自宅での看取りでした。
しかしその後、次第に医療システムが発達し、病院で治療を受け、病院で亡くなっていくことが当たり前になっていきました。
今の日本において、在宅で死を迎えるということは、ほとんどの人が身近に感じることができないのが現状です。内閣府の調査によると、最期は自宅で迎えたいと望んでいる人が高齢者の5〜6割に増えているそうです。
訪問看護師として在宅での看取りについて、現状をお伝えしてみたいと思います。
在宅で看取るメリット
在宅療養をするために、生活課題を福祉制度や施設で解決する社会資源の1つである「地域包括ケアシステム」を利用します。
地域包括ケアシステムとは、介護が必要になっても最後まで住み慣れた地域で暮らせるよう、総合的な福祉サービスを地域で提供する仕組みのことです。
ケアマネージャーが中心となって、訪問診療・看護、訪問介護、福祉用具のプロなどの多職種が連携して療養生活を支え、安心して在宅で過ごせるようにしていきます。
住み慣れた家での療養生活には、厳しい制限や規則がありません。生活リズムも大きく変化することなく、ご自身のペースでやりたいことができる機会が多いです。
また、最期の時まで大切な家族や親戚、友人などと一緒に過ごせるので、残される側も「在宅で看取りができてよかった」と安堵感を得ることができます。
在宅で看取るときの不安解消ポイント
在宅医療にあたっては、ケアマネージャーを中心とした多職種と、主体となるご本人やご家族が一緒に、サービス計画を話し合い、決定していきます。
初めてのことで分からないことや不安なことが多くても、その都度話し合いを持つことが重要です。
そして日頃から本人の希望や要望をなるべく細かく聞いておく方が、家族もサポートしやすくなります。不安や心配なことはそのままにせず、遠慮することなく相談しましょう。
終末期の在宅介護の心構え
在宅での看取りは、本人や家族の覚悟が必要です。
病状が変化していくことへの不安や恐れが出てくることが考えられるので、最期を迎える過程を、知っておくことが大切です。
しかし、在宅介護を決めたといっても、気持ちが揺れ動くことがあっていいのです。その都度不安を解消して最期まで寄り添えるように、各専門家がサポートしてくれます。
サポートをもってしても不安が消えないようなら、病院に入院することも可能です。
周りのサポートを受けながら、相談しながら、迷いながらも一緒に過ごしていくという覚悟で寄り添うことができれば良いのです。
以下、在宅医療で不安になりがちなケースと、訪問看護師としてのアドバイスをお伝えします。
食欲が落ち始めた時
食欲が落ちてくると、元気がなくなるのではないかと心配になり、「少しでもいいから食べてほしい」と思うものです。
期待に応えて頑張って食べようとするかもしれませんが、欲しがらない時は 無理して食べさせなくても構いません。
もし何か口に入れられそうであれば、水分やのどごしの良いもの、高カロリーの飲料をすすめてみるのもいいかもしれません。
食べたいものを、食べたいだけ、飲みたいものを飲みたいだけあげることが大事です。
食事が摂れなくなった時
食べなくなるということは、体が食事や水分を受け付けなくなってきているということです。
あせらずゆったりとした心で、見守ってあげることを大切にしてみてください。
心配になって、点滴を入れてあげたいと思うかもしれません。
点滴をして元気を取り戻せればよいのですが、尿の量が減ってきたり、むくみが出ている場合、心臓や腎臓、肺の機能が低下している恐れがあります。
点滴をすると肺や心臓や皮下に水が溜まって、痰が増えたり呼吸が苦しくなって辛くなるので、おすすめできません。
理想は、枯れるようにです。それでも処置してほしい場合は、医師や看護師に相談しましょう。
訪問看護師からご家族へ一言
元気な時から「最期はどのように過ごしたいか」など、日頃からお互いに意向を伝えあい、話し合っておいたほうが、残された人にとって迷いが少なくなると思います。
いざ最期を迎えたとき、残される側には「あのときああすればよかった」などと後悔の念がでてくるかもしれません。
しかし、「本人の意向通りに、目の前のことを精一杯できている」と実感できれば後悔は無くなるか、軽減するでしょう。
聴覚は最期まで聞こえているとか、深い呼吸のときは酸素不足により脳内麻薬といわれるホルモンが出るといわれています。その人らしいエピソードを聞かせてあげて、ときには笑顔で、ときには泣いたりして、穏やかに安心して見送ってあげられるといいでしょう。