『棺に入れます』を超える入棺体験とは?「拝啓、柩の中から展」の挑戦
こんにちは!
2024年5月20~21日にかけて、京都にて「拝啓、柩の中から展」を開催いたしました!
今回はTBWA HAKUHODOさんの「Disruption® Lounge」というイベントの一環として、「終わりのはじめ方」をテーマに展示を企画しました。本イベントでは、お寺という場を日常に溶かす取り組みを進めている佛現寺さん、人・事業・地域を繋ぐ取り組みを行う京都信用金庫さんの会場をお借りし、それぞれの場所でしかできない展示となりました。
イベントの詳しい様子はこちらの記事をご覧ください!
今回の記事では展示を企画するにあたり、むじょうが考えていたことについて(かなり赤裸々に)まとめました。イベントに実際に参加してくださった方も、そうでない方も、むじょうの展示企画の一端をぜひ覗いていってください👀
死との出会い方をリデザインする≠棺に入ってもらう
「棺桶写真館」「供養RAVE」など、むじょうはこれまで棺桶を使ったイベントを実施してきました。昨年10月にはMYAF2023でも入棺体験を実施し、棺という非日常的なアイテムを活用したイベントをむじょうの代名詞と捉えていただける機会も増えてきました。
同時に、『棺桶を作っていらっしゃるんですか?』『葬儀用品メーカーさんですか?』という質問をいただくことも。
確かに、展示の真ん中に堂々と鎮座する棺を見ればそう勘違いされるのも自然なことです。
死、という日常から隠されがちなテーマについて考えてもらうためには、物理的に棺を見る、触るという行為はとても大きな効果があります。最初の棺桶イベントでもあった「棺桶写真館」のインスピレーションは、代表の前田が実際に棺桶に入った時の感覚が発端となっているほどです。
しかし、棺に入ることができるというインパクトの大きさゆえに、「生をみつめ直す」「人生の締め切りを意識する」という企画そのもののメッセージをうまく伝えられないもどかしさを感じていました。
他にも、棺を見るなり『縁起でもない』と離れてしまわれる方も。当然、「死」について前向きに考えたい人の方が少数であることは間違いありません。身近な人の死を経験したり、自分の死について現実的に捉えている人ほど、むしろ棺桶に入るという行為は身に迫る恐怖を感じると思います。考えない、ということも選択肢としてあって然るべきです。
ただ、展示の中心はあくまで「死に思いを馳せることで、生をみつめ直すこと」。棺がそこにあるという衝撃の強さが企画の趣旨を塗りつぶしてしまうことは、展示設計の課題でした。
そんな中舞い込んできた、Disruption Lounge in Kyoto のオファー。
棺桶を使った展示を、というリクエストを受け、今までの課題に正面から向き合う形で設計が始まりました。
「死はなぜ怖いか?」から因数分解していく
今回のDisruption Lounge in Kyotoは、“Demise Duality(終わりの多様性)” というトレンドを元に企画されたイベントです。TBWA HAKUHODOが毎年公開しているグローバルトレンドの潮流を読み解く予測レポート「EDGES(エッジ)」において、生活者の価値観の変化は人の死への関心以外にも、地球や人類の終わりについても関心を持ち始めている潮流があると紹介されています。むじょうの活動にご注目いただけるのも、こうした普遍的な興味関心があってこそとも言えるかもしれません。
関心が高まる一方で、前述したように「関心はあるけれど、考えることができない」という現象が起きているのはどうしてなのか?という問いから設計はスタートしました。
考えた方がいいのはわかっているけれど、今じゃなくてもいいじゃないか。
考えてみようかな、と思うこともあるけれど、何となく嫌だ。何となく怖い。
漠然とした恐怖を言語化していくうちに、死や終わりが怖いのは「よくわからない(=解像度が低い)から」ではないか?という仮説に辿り着きました。
死、とは身体の終わりだけを指す言葉ではありません。
身体の終わりを起点として、他者との関係、モノとの関係、様々な関係性が強制的に変化することでもあります。自分が死んだら、家族は、パートナーは、友人はどうなるのか?
自分が死んだら、これまで取り組んできた仕事は、趣味は、生活はどうなるのか?
その変化の全てが、「終わり」という言葉には包まれているとむじょうは考えます。
死んで失うものは全て、生きている中で作り上げてきたものです。
失うことが怖い、と理解することは、自分の人生においてそれがどれだけ大切であるかを再確認するプロセスでもあります。
つまり、怖いから考えるのをやめてしまうのではなく、怖いからこそ「正しく怖がる」ことが「終わりのはじめ方」ではないか、というのが今回のむじょうの主題になりました。
とはいえ、いきなり「終わり」に含まれた無限に存在する「もしも死んだら〜」をひとりで考えることは難しいものです。その段差を乗り越えるための展示の具体的なコンセプト検討が始まりました。
仕掛け①素直に考えるための寄り道を作る
「あなたが人生で一番大事にしているもの/ことは?」と突然問われて、パッと答えられる人はそう多くないと思います。また、何となく自分の中で「こう答えた方が良さそう」という模範解答がよぎってしまうこともあるのではないでしょうか。
できるだけ素直に、自分の人生で大切にしているものを描き出すための仕掛けが「六問銭」です。
六問銭とは、本展示のために新たに作成した入棺前ワーク。死者が三途の川を渡るための渡賃として、お葬式で「六文銭」を棺に入れる日本の葬儀慣習をモチーフにデザインしました。棺に入る前に、自身の人生について振り返るための六つの質問に答えるワークです。6問のセットは全部で6種類あり、自分がどの問いに答えるかはフローチャートから決めていきます。
フローチャートの質問はYES/NOで答えられる簡単な心理テストのようなものばかりですが、選択していくことでざっくりと「人生で最も重視していること」が絞り込まれるようになっています。
選択した先に辿り着く6種類にはそれぞれ色の名前が割り振られており、その人が何を重視しているのか色からだけでは本人にも周りにも推察できません。配色もかなりランダムに、「恋愛や家族だからピンク」というような連想を排除して割り振っています。
そうして自分の色が決まったら、質問が六問書かれた解答用紙を受け取ります。
ここではサンプルとして、べにふじの六問銭を見てみましょう。
上3つは、どの質問セットでも聞かれる共通質問です。抽象的な質問で、一度自分のこれまでの人生を俯瞰して見ることを促します。
対する下3つは各色固有の質問です。自分が選ばなかった色の設問は、基本的に知ることはできません。色を選択した人が重視する傾向にある内容について、具体的に掘り下げる設問をそれぞれ用意しています。
もちろん、簡易なフローチャートで人生を推し図ることはできませんし、六問で劇的に何かがわかるわけではありません。
ただ、この寄り道を経て棺に入ることで、以前よりも解像度高く自身が何を手放すことになるのか、その時どう思うのかを感じやすくすることはできます。
事前にあれこれ考えてから棺に入ることで、「終わり」について解像度をあげること。そして、入棺が展示のメインイベントから「必要なプロセスの1つ」に落とし込まれることがこのワークの狙いです。
仕掛け②「宛先」を持って死について考える
考えることを促す上で「宛先」は大きな効果を持ちます。棺桶写真館でも、遺書を書く行為を通し言語化するワークは大きな反響を呼びました。今回は、宛先を「1ヶ月後の自分」と設定しました。
棺に入るという体験は衝撃的なものですが、棺の中で考えたことは時間とともに薄れていきます。入ってすぐの状態で、少し先の自分に宛てて考えたことを伝えることで、できるだけ素直な言葉で記憶を書き留めてもらうことが目的です。
書いた手紙は目の前でスタッフがシーリングスタンプで封をして参加者に返却し、公式LINEを通じて1ヶ月後に開封通知を送信します。
このワークの過程こそ、今回の展示名「拝啓、柩の中から」の由来となっています。
「柩」とは中に故人が入られた状態の棺を指す言葉。柩の中にいた私から、1ヶ月後の私へと送る言葉を綴る展示として命名しました。
書いた手紙はどこに公開されることもない、自分のためだけのものです。
1ヶ月という期間はちょうど忘れ始める頃合い。記憶が薄れ始めたタイミングで、ひと月前の自分が考えていたことを受け取り、今の自分は何を思うのか考える時間をもつ。展示の中に滞在している時間だけではなく、長い時間軸で体験を設計するという試みは、むじょうとしても初の挑戦でした。
他にも、今回はお土産としてステッカーを販売。「入棺済み」と書かれた少しお茶目なステッカーは、棺に入ったあの日を思い出すささやかなスイッチになることを期待して作成したものです。
「棺に入った」というインパクトを起点として、考え続けるためのトスを日常に投げる。今までむじょうが抱えてきた棺桶イベントの課題から一歩踏み出した企画です。
終わりに
いかがでしたか?
むじょうがこれまで考えてきたことと、様々な立場からのご協力の掛け合わせで完成した「拝啓、柩の中から展」。「終わりのはじめ方」というテーマをいただいたからこそ挑戦できた展示となりました。改めて今回ともに関わってくださった運営、参加者のみなさま、本当にありがとうございました!
これからもより良い「死との出会い方のリデザイン」を目指して挑戦を続けてまいります!
また、むじょうは「六問銭を使ってこんなことをしてみたい!」「むじょうとこんなことをしてみたい!」などのご意見、ご提案もお待ちしております👀
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