自宅葬のここ クリエイティブ制作の過程を公開!

自宅葬のここ クリエイティブ制作の過程を公開!

こんにちは、株式会社むじょうでデザインを担当しています、中澤希公(きく)です。『棺桶写真館』『死んだ母の日展』『死んだ父の日展』といったむじょうを代表する企画の立ち上げに参画してきました。

この度、2022年10月にリリースした自宅葬専門葬儀ブランド「自宅葬のここ」のクリエイティブを作成しました。ブランドは共感を生み、特別な存在となり、ファンを集めてはじめて「ブランド」を名乗ることができます。自宅葬のここがブランドへと成長していく第一歩として、その生い立ちについてまとめました。ぜひご覧ください!

ブランド名「ここ」に込めたこだわり

まず、「ここ」という名前がどのようにできたのかからお伝えしていきます。

そもそも、皆さん自宅葬をご存知ですか?自宅葬とは、アパート、マンション、一軒家など、普段生活している自宅で執り行う葬儀の形です。1960年頃までは自宅葬が主流でしたが、医療の発展、核家族化、地縁の希薄化、高度経済成長などの影響を受け、自宅葬の数は減り、式場中心の葬儀へと時代が変化していきました。現在は、自宅葬は全葬儀の5%と言われています。しかし、2015年の介護保険法の改正など、自宅で看取りが増加する仕組みの整備や葬儀の小規模化によって、今後自宅で小規模のお葬式をあげる需要が増えてくると見込まれています。

葬儀業は、ぼったくられそう・わからないから怖いなどネガティブなイメージを持たれがちな業種です。しかし、大切な人のお見送りをサポートしてもらう重要な役目を任せる相手でもあります。少しでも、親しみを感じてもらえるような名前にしたいなとアイディアを出していきました。届けたい価値を抽象化したり、花言葉からヒントを得たり、イントネーションから考えてみたり...全部で50案出して、そこからディスカッションして決定しました。

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  • アイディアの一部

たくさん出た案の中で、「ここ」は私の推しでした。「此処(ここ)」で死にたいを叶え、「個々(ここ)」の願いと向き合い、「戸戸(ここ)」にあった空間をつくる。名前に込めた思いをプレゼンし合う中で「これはいい!」とメンバー全員が共鳴し決定しました。

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葬儀屋では珍しい暖色系がブランドカラーになった理由

次に軸となるブランドカラーを決めました。葬儀というのは非日常的な体験です。自宅葬を行う家とご遺族が生活する家が同一の場合、葬儀を終えた後も自宅で日常を送ることになります。故人様のことを思い出したり、お供えをしたり、手を合わせたり、自宅という存在が、ただ日常を過ごす箱ではなく、故人様との繋がりを保つ場所になるでしょう。そのため、自宅という日常の空間に葬儀という非日常を持ち込み、生と死の境界を曖昧にするようなカラー4種類を起案し、決定しました。

1色目は、肌色です。人間の肌の色を作るメラニンの色を採用することで、死体としてではなく死人として扱う意志を示しています。

2色目は、マンダリン色です。この色は、マリーゴールドの花の色から抽出しました。この色とは、ディズニー映画の『リメンバー・ミー』を鑑賞した時に出会いました。この映画はメキシコが舞台になっており、死者の日という日本でいうお盆のような日について描かれていました。死者の日に、マリーゴールドの花を家や墓地に飾り、死者が迷わずに生者がいるこの世へ戻ってこれるようにしている世界観に強い印象を受けました。ここでは、死者と生者が出会うために用いられている花のカラーとして採用しました。

3色目はグレーです。グレーは白でもなく、黒でもありません。生=白と死=黒の境界線を解きほぐすカラーとして採用しました。

4色目はホワイトです。大切な人を亡くすことは、人生の中で最も悲嘆が強い体験と言われています。葬儀は、大切な亡くなった人のことを考え、自分の心の中を整理できる喪の仕事ができる時間です。故人様を送り出すだけではなく、ご家族の方の新しい日常のスタートをサポートするため、この色を採用しました。

自宅葬のここ ブランドガイドライン

フォントは高齢者に優しいものであること、感情が揺さぶられている時にも認識しやすいものを採用しました。

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自宅葬経験者の声をヒントに紡いだキャッチコピー

ブランド名・テーマカラー・フォントが決まってきたところで、自宅葬のここが大事にする一つのキャッチコピーを作りたいという話になりました。まずは葬儀屋さんが使用しているキャッチコピーを分析しました。その結果、「信頼」「安心」などの言葉だけでは伝えることが難しい単語が用いられていることが多いという気づきがありました。

葬儀の失敗は許されません。信頼や安心が必要で、それをお客さまに届けたいと考えることも納得できました。しかし、私たちは温かさや親しみやすさが伝わり、「お客⇄葬儀屋」ではなく「葬儀を一緒につくりあげるパートナーとしての関係を築きたいと思いました。

ネット上の記事に書かれている自宅葬のメリットは

  • 6畳でも葬儀を行うことができる。
  • 時間を気にせずにゆっくり過ごせる。
  • 住み慣れた自宅で送り出せる。
  • 葬儀場を使用しないため費用を安く抑えられる。

などがあります。さらに自宅葬の良さを生み出すために、自宅葬を経験した人にアンケートを取りました。綺麗事のようにまとめられた記事とは違い、アンケート結果にはあたたかさがありました。感情しやすい私は泣きながら記事を読んでいました(笑)

その中でも特に私の心を動かした声は、犬と一緒に過ごせてよかったという声でした。葬儀というと、喪服の人が沢山参列しているシーンが頭によぎります。ペットが参列する葬儀はこれまで映画やドラマなどでもみたことがありませんでした。ペットも家族の一員でありかけがえのない存在です。

式場の規則上、ペットは連れて行けないと諦めてしまうことや、赤ちゃんが泣いてしまったらどうしようという不安がありますが、自宅なら心配ありません。

そして、「泣いても、鳴いても、大丈夫」というキャッチコピーが生まれました。

大切な人が旅立つのはとても悲しい出来事です。私は大切な人を亡くした遺族会に足を運び、グリーフケアについて学んでいました。遺族会のスタッフは参加者の方に「大人だって強がらずに泣いても大丈夫。」という言葉をかけます。お家だからこそ自分のありのままの感情をさらけ出せる葬儀をつくりたいと願いこのキャッチコピーにしました。

思い出や感情がおもちゃ箱のように詰まったお家

最後にロゴを作成しました。皆さんのなかに葬儀屋と言えば〇〇という葬儀屋が思い浮かびますか?全日本葬祭業協同組合連合会によると、平成29年の時点で葬儀社は4000社〜5000社あるそうです。その中で特別な存在と認識され、記憶に刻んでもらえるロゴを作成しなければならず、どの方向性でシンボルを決めていこうか悩みました。コンセプト重視だけではなく、自宅葬のここのサービスを多くの人に届けるために、マーケティング(誰に・どのような価値を・どう届けるか)の部分からもロゴを考えて作成していきました。

既存の葬儀屋のロゴを分析し、①タイポグラフィックのみ ②シンボル(カラー主張) ③シンボル(カラー主張なし)の3つのタイプで比較していきました。

①タイポグラフィックのみ を選択すると、自社の名前を覚えてもらえるメリットがあります。しかし、まだ自宅葬のここはスタートしたばかりで広告費にお金をかけることができません。そのため、ロゴとの接触機会が少なく、名前を覚えてもらうきっかけを提供することができません。そのため、ここのロゴと接触する人が少なかったとしても、どんな葬儀屋さんなのかを瞬時に理解してもらえる方向性でロゴを検討しました。

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  • アイディアの一部

ブランドカラーであるオレンジ色が目立つため、②シンボル(カラー主張) の方向性がいいと判断しました。そして、シンボルは抽象的なものではなく、どんな葬儀屋なのかを瞬時に理解してもらえるように、「天国」や「送り出す」など抽象的なものではなく、家の形を軸に作成することにしました。

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  • 丸みや色味を模索していた途中経過

最終的には、たくさんの思い出が詰まった家で送り出すイメージを元にしたこちらのロゴに決定しました。

自宅葬のここ ロゴ完成版 アートボード 1

最後に

私は大好きだった母を中学生の時に亡くした時、母の死と素直に向き合うことができませんでした。亡くなったという事実を忘れたいと思い、部活動に励む日々でした。どこの葬儀屋にお願いをしたのかもわかりませんし、喪主ではなかったので葬儀のスタッフさんと話した記憶もありません。もしも、葬儀の時間にゆっくりと母の死と向き合うことができたら、気持ちよく母を送り出せたのかなと思います。

死への向き合い方は人それぞれですし、急ぐ必要もないと思います。大切な人との死別と向き合う第一歩として、心残りなくきちんと送り出す葬儀のお手伝いができるよう、社員一同精進します。自宅葬のここをよろしくお願いします!

スタッフが離席。家族だけの時間を過ごせる。
喪服でも、平服でも。ご家族らしい空間を。
棺桶にお絵かき。メッセージ。小さな子供の 記憶にも残る。
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ペットも同席。家族みんなで
お見送り。
中澤希公
中澤希公
デザイナー
慶應義塾大学環境情報学部3年。中学3年の時、乳癌を患う母との死別を経験。死別の悲しみに寄り添う活動を軸に『死んだけどあのね展』や『死んだ父の日展』などの展示会を企画している。